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秋山かおり SISYU

SISYUの立ち上げを共にした、デザイナー秋山かおりさんにお話を伺いました

SISYUのロゴ・WEBサイト・刺繍サンプルと、立ち上げの際のデザインの全般を担当した、STUDIO BYCOLORの秋山かおりさん。SISYUはアパレル業界の方だけでなく、広い範囲のデザイナー・クリエイターといった表現したい方に対しての窓口になりたいと考えていてます。そこで、プロダクトデザインを生業にされている秋山かおりさんに、従来とは少し別の視点から刺繍を捉え、デザインしていただきました。今回のインタビューでは、秋山さんの率直な話をお伺いすることができました。

◇profile◇

秋山かおり

色や素材の持つ力を効果的に活用するクリエイションを生み出すデザイン事務所STUDIO BYCOLORを主宰。千葉大学工学部デザイン工学科を卒業後、オフィス家具メーカー勤務を経て、オランダのデザイン事務所 STUDIO Samira Boonでの経験を通し、現在に至る。German Design Award(独)、DESIGN PLUS賞(独)、DIA Top100(中)、グッドデザイン賞受賞。ミラノサローネ他国内外の展示会に多数出展。2018年より素材を切り口に日本のクリエイティビティを世界へ発信するデザイン展「MATERIAL IN TIME」のプロデュースを手掛ける。千葉大学 工学部 デザイン学科 非常勤講師 / 法政大学 デザイン工学部 システムデザイン学科 兼任講師、その他JIDA ミュージアムセレクション選定委員、富山デザインコンペティション審査員を務める。https://www.studiobycolor.com/

刺繍と聞いて どんなイメージをお持ちでしたか?

刺繍と聞いてパッと思い出すのは花や草などのモチーフがあしらわれたハンカチなどアイテムです。木枠に布をはめて、その中に一差し一差し縫っていくことを刺繍と理解しています。温もりが感じられる手仕事のイメージですね。

私がまだ小さな子供の頃の話ですが、リビングに両親が結婚した時にそれぞれ縫った刺繍の花が額装されていました。子どもながらにその刺繍が素敵だなと思っており、いつか自分でもやってみたいと思っていました。

ある日、遂に母に刺繍を教えてもらったのですが、のめり込むと周りが見えなくなる性格は子どもの頃からのもので…完成までかなり近い段階で、自分が着ていたパジャマも一緒に縫っていたことに気がついた時は、とても悔しくて悲しかった苦い思い出があります(笑)

刺繍は一目一目の糸が描く痕跡そのものが作品に直結しているので、少し目を離すと粗が目立つし、とても集中力や根気のいる仕事ですよね。私が普段関わっているインテリアや家具の距離感のものづくりとは異なるし、また一方で、精密機械での加工による均一なミクロの世界のものづくりとも異なる、目視距離の柔らかな表現を可能とする世界です。

デザインする中で刺繍へのイメージは変わりましたか?

以前、富山のエンブロイダリーレースの会社とレースのハンカチを作らせていただいたことがあるのですが、13mあるマシンをガシャンガシャンと動かされていて意外と迫力のある現場なんだと思いました。

今回はコロナの影響もあり、各事業者の皆さんの現場にお伺いすることは出来ませんでしたが、オンラインの打ち合わせやサンプルのやりとりを通じて様々な驚くべき魅力的な技術を拝見させていただきました。

多くがいわゆる手刺繍ではなく、産業革命時に生まれた機械刺繍をベースに様々な技術を発展させてきているのですが、中には横振り刺繍といって「これも刺繍なの??」と目を疑うような水彩画のような美しいグラデーションなど、職人がミシンで1点1点縫い上げる技法も生きていることを知りました。

[刺繍サンプル]横振り刺繍:アトリエきよみ/大澤紀代美さん作

その他、コード刺繍、駒刺繍、詰め駒刺繍、フリンジ、立体的な3D刺繍など、種類も多岐に渡ることを知り、今までの刺繍の概念を大きく覆されました。知れば知るほど、同時に「こんなことももしかしたら出来るんじゃないか」と、様々な可能性を探りたい欲求に駆られました。

出来上がった刺繍サンプルを見て どうでしたか?

オンラインでのやり取りを通してある程度は完成品をそれぞれ想像していましたが、やはり現物を目の前にすると『感動!』の一言ですね。

[刺繍サンプル]3D刺繍:村田刺繍所作

表現が具体的にどうなるかこちらで理解が及んでいない部分は、各事業者さんにこちらのニュアンスをうまく汲み取っていたき、お任せさせてもらいました。皆さん長いことファッションデザイナーと二人三脚でより美しい表現を探ろうと技術を研鑽されてきたことが節々に感じられました。

秋山さんが描いたデザインの原画

主にプロダクトデザインを生業としている私にとって布もののデザインに関わることはそれほど多くなく、椅子張地のデザインなど比較的プレーンな表現が少なくありませんでした。ファッションの業界と深いつながりのある刺繍の現場の言葉がまず分からない点がありましたが、刺繍について素人の私の稚拙な言葉や表現からイメージを膨らませて設計いただき本当に感謝で一杯です。

こういった一連のやりとりを経ると、やはりそれぞれのプロセスを現場で見たいという衝動が沸くものです。

布の裏側から縫い目を見ると、そういうことなのか、と頭では理解できるのですが、具体的にミシンをどのように使ってその表現が生まれるのが、これはやはり現場に行かないとわからないなという点が多々有ります。 状況が落ち着いたらそれぞれの秘密!を垣間見にぜひお伺いしたいと思っています。

紙面上のサンプルのデザイン画と、実際に刺繍で縫い上がったサンプルを比べて、気づいたことはありますか?

糸の煌めきや影はアイデア段階の平面の時点では計算しきれない部分でもあり、まずは見た目の迫力に圧倒されました。そして実際に手で触れると刺繍が施された部分の厚みや硬さや張りなどを感じられ、物質としての重みが加わることによる深遠な刺繍の魅力には驚くばかりです。

刺繍は二次元的な要素と一般的には認識されるかと思いますが、一目一目影やハイライトが入ることでジャガード織物などとも異なる立体感が生まれるものだと改めて気がつきました。

[刺繍サンプル]こま刺繍:大桐作

また、刺繍の糸の流れや群となって密集している部分に生まれる光の反射がとても美しく、身に付けて動きを伴うとまた違う魅力が生まれることも大事な気づきでした。いつかこの辺りの気づきを魅力的な形に出来たら良いなと思います。

[刺繍サンプル]コード刺繍:松盛ジャガード作

刺繍のこれからの可能性はどこにあると思いますか?

すでにファッションにおける様々なクリエイティビティと対峙してきた産業かと思いますが、過去の技術と見てしまうのはとても残念だと思います。

例えば私のような別ジャンルのデザイナーや建築家、UIやUXなどデジタルを活用したクリエイターなど、新たなジャンルの新しい表現の場で益々発展していく産業だと思います。

オランダに住んでいたときにお世話になっていたサミラ・ブーンは、テキスタイルとプロダクトに主軸をおいて活動するデザイナーです。

左:Samira boonさん /右:秋山かおりさん

彼女はデルフト工科大の建築学科を卒業した後、東京工業大学への留学を経て、現在アムステルダムを拠点に活動しているのですが、芸術・科学・技術の分野を横断し、3D建築テキスタイルの分野を牽引しています。

サミラ・ブーンが手掛けたa.f. theaters tilburg ©Studio Samira boon

滞在中にオランダのTilburg(ティルブルフ)にあるTextile museumで彼女のイベントがあり連れて行ってもらったのですが、美術館というよりは先進的なラボであることにとても刺激を受けました。様々なデザイナーが出入りするようで開かれたこのような施設が日本にもあったらと思いました。

textile museumの様子(秋山さん提供写真)
サミラさんがtextile museumと共同開発する様子 ©Studio Samira boon
サミラさんがtextile museumで制作する様子 ©Studio Samira boon

ちょうどその時期に企画展示で、イスラエル人Boaz Cohenと日本人 Sayaka Yamamotoによる「BCXSY」というユニットの作品が展示されていました。17世紀のオランダの静物画にインスパイアされた豊かなモチーフを、3次元透視グリッド図を使用して真っ白なテーブルリネンを表現していたのですが、静かに軽やかに当時と現代を編み繋いだ表現がとても瑞々しく印象に残りました。

©BCXSY
©BCXSY

日本の刺繍をはじめとするテキスタイルの素晴らしさは、広めたいけれど一方で秘密にしておきたいという気持ちがあるのは正直なところですが、このSISYUを通して世界の優れたクリエイターが現場に訪れるきっかけになっていくことを願っています。

今後のSISYUに期待することは?

まずは、少しでも多くの人々に刺繍のイメージを刷新してもらうきっかけになればと思います。

今回、SISYUのロゴのSの字を様々な刺繍の技術で表現していただきましたが、同じSという文字を表現するとしても、技術が違うことで出来る表現の幅が広がることがとても新鮮でした。

[刺繍サンプル]フリンジ刺繍:村田刺繍所作

まずはこの刺繍標本の写真を通して興味を持ってもらい刺繍の現場を開くことで、人々の刺繍に対する理解の幅を拡げながら深めることが出来るのではないかと思います。

[刺繍サンプル]コード(リボン)刺繍:松盛ジャガード作

刺繍は中国やハンガリー、ベルギーなどそれぞれの土地でそれぞれの文化を紡いできた手法ですが、SISYUを通じて日本の桐生から独自の刺繍の文化を発信することで、現場の人々同士が繋がりお互いの魅力を共有し合えたらとても素敵だと思います。 様々な繋がりがここから生まれることを期待しています。

編集後記

多くの刺繍サンプルは、洋服を意識して作られています。今回の刺繍サンプルは、すべてSISYUの『S』の形をベースにシンプルに制作しました。技術や表現の違いを比較しやすくすることで、制作の標本として活用していただきたいと考えています。

今、コロナ禍で制限のあるなかでの制作を余儀なくされている方も多いかと思います。今回の刺繍サンプルの制作もALLオンラインで進めてきました。オンラインでのもどかしさも感じながらも、デザイナーの発想力と職人の技術力が共鳴し合うプロセスでした。

SISYUでご紹介する刺繍事業者は、長年、有名アパレル企業のOEMを受注し、丁寧で精度の高い技術を持たれています。それに加え、そこでしかできないような独自性の高い表現方法もお持ちです。デザイナー・クリエイターの方には安心して頼っていただけたら嬉しいです。

文:SISYUコーディネーター 星野あさみ